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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)6277号 判決 1973年3月30日

原告

神谷紀美

被告

丸和木材株式会社

ほか一名

主文

被告丸和木材株式会社は、原告に対し、金一、四二八、九六三円およびうち金一、三二八、九六三円に対する昭和四五年一二月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の同被告に対するその余の請求及び被告大阪トンボ交通株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告丸和木材株式会社との間に生じた分はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を同被告の負担とし、原告と被告大阪トンボ交通株式会社との間に生じた分は原告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告らは、各自原告に対し、金二、九二九、八一八円およびうち金二、六七九、八一八円に対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

原告は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四五年三月一八日午後一〇時二五分ごろ

(二)  場所 京都府綴喜郡八幡町八幡荘南山先道路上

(三)  加害車甲 普通乗用自動車(泉三す一四五一号)

右運転者 訴外網野公子(西進)

(四)  加害車乙 普通乗用自動車(大五か三三〇二号)

右運転者 訴外中田正士(東進)

右同乗者 原告

(五)  態様 甲車が中央線をこえて進行したため、対向する乙車と衝突した。

(六)  傷害 頭部外傷、顔面打撲、下顎部切創(二ケ所)、胸部打撲、下顎骨々折、外傷性歯牙脱臼、外傷性歯冠破折、外傷性歯随エソ、左肩打撲、両下腿挫創、左動眼神経不全麻痺、外傷性頸部症候群

二  責任原因

(一)  運行供用者責任

被告丸和木材は、加害車甲を所有し、被告トンボは加害車乙を業務用に使用し、各自己のため運行の用に供していた。

三  損害

(一)  治療経過

京都四条大宮病院

入院 自昭和四五年三月一八日至同年同月二四日、七日間

市立枚方市民病院

入院 自同四五年三月二四日至同年五月一一日、四九日間

北野病院

入院 自同四五年五月一一日至同年七月一五日、六六日間

通院 自同年七月一六日至同四七年三月二四日

後遺障害

左動眼神経麻痺による複視一二級一号

下顎歯牙欠損 一四級二号

(二)  治療費 一六二、四一五円

北野病院脳外科・歯科通院治療費 一六〇、一一五円

文書料 二、三〇〇円

(三)  入通院雑費 五八、二二〇円

入院雑費 三五、七〇〇円

一日三〇〇円の割合による一一九日分

入退院雑費 六、〇〇〇円

通院費 一六、五二〇円

一回二八〇円の割合による昭和四五年五月一二日から同四七年三月二四日までの五九回分

(四)  逸失利益 六五〇、〇六八円

家事等手伝人費用 一八六、〇〇〇円

原告は家事に従事すると共に小松製作所労働組合執行委員長、枚方市会議員、枚方市自治会長区長の職にある夫の仕事を扶けているが本件事故のため昭和四五年三月一九日から同年七月二〇日までの間これらの仕事を亀田エイ子、小笠原博、同順子に依頼して一八六、〇〇〇円を負担した。

後遺障害による逸失利益 四六四、〇六八円

収入 年収 二二八、五四〇円

(昭和四三年労働統計年報)

今後四年間四〇%、又その後四年間二〇%を下らない労働能力を喪失した。

八年間二〇%の減収分

二二八、五四〇円×〇・二×六・五八八六=三〇一、一五一円

最初四年間の二〇%の減収分

二二八、五四〇円×〇・二×三・五六四三=一六二、九一七円

計 四六四、〇六八円

(五)  慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

(六)  弁護士費用 二五〇、〇〇〇円

四  よつて、原告は右合計三、一二〇、七〇三円のうち二、九二九、八一八円及びうち二、六七九、八一八円に対する訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの答弁と主張

(被告丸和)

一  請求原因一項(一)乃至(五)は認める。(六)は不知。

同二項は認める。同三項は不知

二  訴外網野は本件事故現場を時速約六〇キロで西進中、突然前方を右から左に横断する歩行者を発見、衝突を避けるため急ブレーキを踏むと共にハンドルを右に切つたため中央線を越え、対向車線を東進中の事故車乙と衝突したものであるが同所は前方右側に竹やぶがある外横断歩道もなく人家もない個所で当時は雨上りで、路面が濡れていたうえ、暗夜であり往来する車の照明が錯綜・反射し、前方・周辺の視界が極めて困難な状態の中を中央線に沿つて走行していた。右の如き状況では歩行者の存在・横断は予知出来ず、発見が遅れたとしても何ら責められるべき点はない。

被告会社は本件加害車甲の運行に関して注意を怠つた事実はなく、又同車には本件事故に関係する構造上の欠陥や機能の障害はない。

被告丸和には責任はない。

(被告トンボ交通)

一  請求原因一項(一)乃至(五)は認める、(六)は争う。

同二項は認める。同三項は争う。

二  本件事故現場は、幅員約一四・二米のセメント舗装の、直線で見透しの良い東に向つて下り勾配の国道であり、北側には道路よりも一段低くなつた一面竹やぶであり附近に交差する道路もない。

訴外中田は加害車乙に原告を乗客として乗車させて東行車道(三車線)の北側車線中央を東進中、対向車線を西進して来た事故車甲と離合する直前突如、同車が自己車線上に右折進出して来た、そこで訴外中田はとつさにハンドルを左に切つたが余りに至近距離であつたため避けることが出来ず、加害車甲の左側面に自車前部を衝突させた。

従つて、本件事故は訴外網野の一方的過失によるものであり、加害車乙を運転していた訴外中田には何らの過失もなく不可避の事故であつた。

加害車乙には構造・機能に欠陥障害はなかつた。被告トンボには責任はない。

理由

一  請求原因一項(一)乃至(五)は当事者間に争いない。

二  傷害

頭部外傷Ⅱ型、下顎骨々折、下顎部切創、両下腿挫創、顔面・胸部・左肩打撲

京都四条大宮病院

自昭和四五年三月一八日至同月二四日入院

市立枚方市民病院

自右同日至同年五月一一日入院

北野病院

自右同日至同年七月一五日入院 (入院期間通じて一二〇日)

自昭和四五年七月一六日至同四七年三月二四日通院 (実日数歯科に六日脳外科に五九日)

四条大宮病院で下顎骨整復術等の治療を受けて枚方市民病院に転医したが、頭部に異常はなかつたが頭痛を訴え、各種腱反射亢進、外傷性複視(左)が認められ更に歯肉部が腫脹し膿み排泄し腐骨排出があつたので、更に北野病院に転医し、下顎骨整復術を行い退院後上歯一本に冠補綴下歯五本に義歯を作製すると共に脳外科に通院した。〔証拠略〕

三  被告らの責任

請求原因二項の事実は当事者間に争いない。

本件事故現場は、おおよそ東西に通じる車道幅員約一四米(片側二車線)の枚方から京都に通じる暗い直線の道路であるが、当時は雨上り後で路面がぬれていた。

訴外中田は加害車乙を時速約六〇キロで西から東に向つて、第二車線を進行中、前方約三五・四米に対向進行して来る事故車甲を発見、そのまま約一〇・七米進行し同車との距離が二一・六米に接近したところ、同車が突然右に進路を変えて来たのを認めブレーキを踏んだが及ばず約一五・七米走行して自車前部を同車左側面に衝突させた。

一方、訴外網野は加害車甲を時速約六〇キロで東から西に向つて第二車線を進行中前方約一五・九米の中央線上に右から左に横断中の人影を認め、急ブレーキを踏んだが発見がおくれたため避けられないと判断しハンドルを右に切つたため滑走して対向車線に進入し、折から対向第二車線を進行中の加害車乙と衝突したものである。〔証拠略〕。

してみると、訴外中田としては特に制限速度を超えて運転していたとも認められないところ、事故車甲が中央を越えて自己の進路に不意に進入して来たものであり、かかる事態を予想してこれに対処すべきことまで同人に要求することは出来ない、従つて同人が制動措置をとつたことで充分注意義務をつくしたものと云うべきであり、過失は認められない。

そして、本件加害車乙には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつたものと認められる〔証拠略〕。

結局、被告トンボ交通には自賠法三条の運行供用者責任はないものと云わざるを得ない。

一方、加害車甲を運転していた訴外網野は夜間周囲が暗く視野が制限され、しかも路面はぬれており停止距離が長くなるのであるから、出来るだけ視線を先に向け、少しでも早く前方の障害物を発見するよう務めるべきであるのに、一五・九米(時速六〇キロであれば秒速一六・六六米となり一秒以内の距離となる)に障害物を発見したのは遅すぎるのではないかとの疑いと、発見後警笛を吹鳴して横断者に注意を喚起し、左にハンドルを切る余地はなかつたのかとの疑も生じ、同人に過失がなかつたと認めることはできず、従つて、被告丸和木材の免責の抗弁は採用出来ず、同被告は自賠法三条により原告が本件事故で被つた損害を賠償すべき義務がある。

四  損害

(一)  治療費 一六二、四一五円〔証拠略〕

(二)  入院雑費 三五、七〇〇円

一日三〇〇円の割合による一一九日分

(三)  通院交通費 一二、九八〇円

一回片道一一〇円の割合による五九日分〔証拠略〕

(四)  入退院交通費

(認めるに足る証拠はない。)

(五)  家事手伝人費用 一二四、〇〇〇円

一日一、〇〇〇円の割合による昭和四五年三月一九日から同年七月二〇日までの一二四日分を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。〔証拠略〕

(六)  逸失利益 一〇三、八六八円

収入一ケ月平均三五、二一六円

(当時原告は三八才の主婦であつたから収入はなかつたと認められるが、家事従事者としての労働を評価すれば、昭和四五年賃金センサス第一巻第一表パートタイム労働者を含む女子労働者学歴計、企業規模一〇乃至九九人の平均を下ることはないものと推認する。)

労働能力喪失率九%

右継続期間 三年(ホフマン係数二・七三一)

(前記認定の後遺症の程度に照し、右のとおり認定する)

(七)  慰藉料 八九〇、〇〇〇円

本件事故の態様、傷害の部位程度、治療の経過後遺障害の程度、その他諸般の事情を総合して、右金額をもつて相当と認める。

(八)  弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

右金額をもつて被告の負担すべき本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

結局、被告丸和は原告に対し右合計一、四二八、九六三円及びうち一、三二八、九六三円に対する訴状送達の翌日である昭和四五年一二月一〇日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告の本訴請求は右の限度でこれを認容し、その余はこれを棄却し訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納一郎)

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